『下肢静脈瘤』とは、足の血管がコブのようにふくれた状態になる病気です。
決して珍しい病気ではなく、10人に1人はこの病気にかかっていると言われています。人間は立って生活をするため、どうしても足の静脈の圧が上がりやすく、静脈瘤になりやすいと考えられています。一旦、静脈瘤になると、自然に治ることはありませんので、治療をしないと、一生、静脈瘤の症状に悩まされることになります。
下肢静脈瘤の症状
下肢静脈瘤の症状には以下のようなものがあります。
- 足の血管が目立つ
- 足の血管がボコボコとふくれている
- 足がだるい、重い、疲れやすい
- 足がつる(こむら返り)
- 足がむくむ
- 足が痒い
- 足の熱感がある
- 足の皮膚に色がついている(色素沈着)
- 足の皮膚に潰瘍ができている
下肢静脈瘤の主な症状は、足のだるさやむくみです。特に、長時間立っていたり、座ったままでいたりした後におこります。また、就寝中、特に朝方などに背伸びをした際に足がつる(こむら返り)症状も、下肢静脈瘤の症状の一つです。実際、当院でも、何をしても治らなかった足のつりが良くなった患者さんが多数いらっしゃいます。医療関係者の中でも、足のつりの原因に下肢静脈瘤があることはあまり認識されていないかもしれません。重症化すると、皮膚の循環が悪くなり(うっ滞性皮膚炎)、色素沈着や皮膚潰瘍などがおこります。当院でも、皮膚潰瘍が治らないということで、皮膚科の施設から静脈瘤のチェックと治療をお願いされることが多々あります。
ふくれた静脈内に血液が滞り続けると、静脈内に血栓(血液のかたまり)ができ、その静脈や周囲の皮膚に炎症を起こすことがあります。皮膚が赤くなり、強い痛みを伴うこともあり、“血栓性静脈炎”と呼ばれます。血栓性静脈炎の症状が出て初めてクリニックを受診される方もいらっしゃいます。ただし、発症から1〜2週間すぎると、多くは自然に症状が改善します。ここでできた血栓は、血流に乗って肺などに飛んでいって詰まること(肺塞栓症)は稀ですので、過度に不安を抱く必要はありません。 当院では、症状が落ち着いた後に、必要であれば下肢静脈瘤の治療を行っています。
下肢静脈瘤の原因
血管には動脈と静脈があります。動脈は、心臓から組織へ血液を運びます。一方、静脈は血液を組織から心臓へ戻す役目があります。心臓へ血液を戻すために、足の静脈は重力に逆らって血液を運ばなければなりません。足の筋肉は、収縮することで血液を押し上げる“筋ポンプ”の役割を果たします。さらに、足の静脈の中には、逆流防止のための、弁と呼ばれるハの字をした薄い膜でできた組織があります。下肢静脈瘤は、この静脈の中の弁がこわれることでおこる病気です。弁がこわれることで血液の逆流が起き、血管の中に血液がたまります。結果として静脈がこぶのようにふくれてしまいます。
下肢静脈瘤を増悪させる危険因子として、以下のようなものがあります。
- 年齢
- 女性
- 妊娠・出産
- 家族歴
- 立ち仕事
- 肥満
- 高血圧
- 便秘
年齢とともに静脈瘤の危険性は上がっていきます。当院での手術された患者様の平均年齢は65〜70歳くらいですが、もちろん若い方でも下肢静脈瘤になられる方はいらっしゃいます。女性は、妊娠、月経や閉経などのホルモンの変化が静脈瘤を発生しやすくします。また、妊娠中は体内の血液量が増え、さらに下肢の静脈圧が上がり静脈瘤が発生しやすくなります。妊娠を経験した女性の約半数に静脈瘤が認められます。家族に静脈瘤がある方は、静脈瘤になりやすと言われています。長時間の立ち仕事や、座ったままの姿勢での仕事の方に下肢静脈瘤は多く見られます。実際、料理人や美容、理容師の方などが多数来院されます。肥満、高血圧、便秘なども静脈瘤の危険因子と考えられています。
下肢静脈瘤の種類
下肢静脈瘤の種類には以下のようなものがあります。
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伏在型静脈瘤
伏在型は、皮膚表面に静脈がボコボコとふくれて見える静脈瘤で、だるさや疲れなどの症状を起こすタイプで、伏在静脈の逆流が原因です。進行性で、重症化すると、うっ滞性皮膚炎を併発し、皮膚の色素沈着、あるいは皮膚潰瘍を引き起こし、なかなか治療が難しくなります。
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クモの巣状・網目状静脈瘤
クモの巣・網目状静脈瘤は、皮膚の表面の細い血管に起こる静脈瘤で、膝の後ろ、太ももや足首などに、青白い網目状や赤紫色のクモの巣のように血管が目立つものです。自覚症状を伴うことはほとんどありません。伏在型に合併することはありますが、これ自体がボコボコとした静脈瘤になることはありません。
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側枝型静脈瘤
側枝型は、伏在静脈には逆流がないのですが、伏在静脈の枝におこる静脈瘤です。症状はほとんどありません。
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陰部静脈瘤
陰部静脈瘤は、足のつけねや太ももの裏側などにある静脈瘤です。伏在静脈に逆流はなく、主に妊娠中の静脈圧の上昇によりふくれた血管が出産後も残ってしまったものです。生理の際に痛みを伴うことはありますが、症状がないことも多いです。
下肢静脈瘤の検査
下肢静脈瘤の検査は超音波検査で行います。針を刺すとか、造影剤などの薬剤を使用することはありません。以前は、静脈造影検査という方法で行っていました。これは、足の甲の静脈に針を刺し、そこから造影剤を注射してX線で撮影していました。この方法では、針を刺す痛み、造影剤による副作用、放射線被曝などの危険性がありましたが、超音波検査は、痛みや薬剤の副作用、X線被爆もなく短時間で終了します。さらに、超音波検査のほうが静脈の逆流の状態がはっきりわかるため、静脈瘤の診断、治療方針の決定に大変有用な検査です。当院では、年間1000件以上の超音波検査を行っております。